糖尿病とは

糖尿病は血糖値が異常に高くなることで、動脈硬化が進行する病気です。
動脈硬化が進むことで細い動脈の血流が悪くなり
①糖尿病性網膜症(目が見えなくなる)
②糖尿病性腎症(おしっこが作れなくなり毒が体内にたまるため透析が必要となる)
③糖尿病性神経症(手足の末梢神経が損傷され痛みや血流が悪くなるため腐ってしまい切除を余儀なくされる)
といった3大合併症の他、脳梗塞や心筋梗塞、認知症や癌など多くの病気につながる疾患です。
年々罹患者が増え続けており社会的にも、経済的にも大変問題となっている疾患です。
糖尿病患者は健常人よりも平均寿命が10年短いのです。
糖尿病を理解するにはまず糖の代謝とその役割を知ることから始めましょう。
糖の代謝
血糖値とはブドウ糖の血液中の濃度のことです。
砂糖はブドウ糖と果糖でできた2糖類です。米や小麦、芋などの炭水化物はブドウ糖がたくさん連なって大きな塊となった状態です。
食べ物が消化され、腸から吸収されたブドウ糖はインスリンというホルモンの働きで血液中から細胞の中に入ります。細胞の中に入ったブドウ糖はミトコンドリアという細胞内小器官で燃焼し、ATPというエネルギー物質が作られます。人間はこのミトコンドリアで作られるATPという物質で生きています。
血糖値とインスリン抵抗性
血糖値は空腹時で90から100くらい、食後は140以下が正常です。
なぜ血糖値が高いと問題なのか?
一時的に血糖値が高くてなってもすぐには何も起こりません。しかしながら血糖値が高い状態が長く続くと「糖化」という反応が起こります。糖化とは糖がタンパク質と結合してしまうことで、そのタンパク質の機能が低下してしまうことを言います。
糖化タンパクは最終的に終末糖化産物(AGE)という物質となり臓器の機能を低下させていきます。
さらにAGEは炎症や酸化ストレスを引き起こすため糖化が進むとどんどん老化が促進されます。
臓器の中でも最も障害を受けるのが細い動脈で、血流が悪くなるため細い動脈の多い腎臓、目、神経が障害されます。
前述した糖尿病の3大合併症はこのようにして形成されます。
なぜ血糖が高くなってしまうのか?
血糖値をさげるインスリンがあるのになぜ血糖値が高くなってしまうのでしょうか?
それは「インスリン抵抗性」と言って、インスリンの効き目が悪くなってしまうからです。
インスリンの効き目が落ちることで、よりたくさんのインスリンが必要となってしまいます。
インスリン抵抗性の原因
インスリン抵抗性はインスリンの過剰分泌から起こる
人間は過剰な刺激を受け続けると自然とそれに慣れるようにできています。大きな音がする騒がしい空間でも慣れてくると会話が聞き取れるようになったりします。
インスリンが大量に存在すると細胞もそれに慣れてしまい、より多くのインスリンが必要になるという悪循環が生まれます。
インスリンの過剰分泌は食後高血糖と慢性炎症によって引き起こされます。
食後高血糖
食後高血糖は糖質の過剰摂取から引き起こされます。特に砂糖の多い食生活を続けると血糖値の急激な上昇にインスリンの分泌が間に合わず、血糖値がスパイク状に上昇します。すると遅れて多量のインスリンが分泌され今度は急激に血糖値が下がり、時には下がり過ぎて低血糖を引き起こす場合もあります。食後に眠くなる人はこのような状況かもしれません。
慢性炎症と酸化ストレス
炎症は免疫細胞が異物を攻撃する際に出る炎症物質がおこす反応です。
炎症といっても痛い、熱が出たといった強い急性炎症ではなく、自覚症状のない弱い、慢性の炎症です。
慢性炎症には歯周病や蓄膿症、腸内フローラの異常による腸の炎症などが多く、炎症物質が全身に回ることでインスリン抵抗性が引き起こされます。また後述する内臓脂肪も炎症物質を出す悪い脂肪細胞です。
また炎症により活性酸素が大量に出ます。活性酸素による酸化ストレスもインスリンに対する感受性を低下させます。ですから長期にわたる心理的ストレスもインスリン抵抗性を引き起こします。
酸化ストレスを強める食べ物は糖質と酸化した油があげられます。
糖質は前述したAGEが酸化ストレス源になります。また酸化した油を摂ると細胞膜が酸化してしまいます。
不飽和脂肪酸という植物性の油は長時間空気にさらされたり、高熱調理をされると酸化してしまいます。またトランス脂肪酸という液体の油を人工的に半固形の油にしたマーガリンやショートニングなども酸化ストレス源となります。
内臓脂肪の蓄積、脂肪肝
血糖値が高いままですと血管に悪いため、インスリンを使って細胞内にブドウ糖を入れますが、これにも限界があります。細胞内に入れなかったブドウ糖はグリコーゲンといった物質に変換され筋肉と肝臓に蓄えられます。食事からのブドウ糖は2時間程度で消費されますのでそれからはこのグリコーゲンをブドウ糖にもどして血糖値を保ちます。
しかしながらグリコーゲンの蓄積にも限界があります。そうなると次にブドウ糖はインスリンによって中性脂肪に変えられます。中性脂肪は皮下脂肪に蓄えられますが、急激な中性脂肪の上昇は肝臓や腸の周りの内臓脂肪に蓄えられます。
この「内臓脂肪」が炎症源となりインスリン抵抗性を引き上げます。
インスリン抵抗性が続くと
インスリン抵抗性が続くと最終的にはインスリンの分泌が悪くなり今度はインスリンが足りなくなってしまいます。
ここまでくるとインスリンの注射がないと生きていけない体になってしまいます。
糖尿病の治療
糖尿病の治療の根幹はインスリン分泌能がなくならない前にインスリン抵抗性を改善することです。
生活習慣改善が必須ですが、やはり薬の力も借りて早い段階でインスリン抵抗性を改善することをお薦めします。
糖の摂りすぎをやめる
砂糖を減らすことがまずはわかりやすい方法です。特にお菓子やジュースなどです。実は人工甘味料もインスリンが出てしまうのでカロリーオフ製品には意味がありません。〇〇コーラゼロでも太ります。
次に炭水化物です1食で炭水化物は拳1個分まで。できれば全粒穀物として食べることをお勧めします。精製された穀物は血糖値が上がりやすいのです。玄米や雑穀を白米に混ぜたりしましょう。
食後の血糖値を上げにくくするためにはタンパク質や食物繊維を先に食べるといいでしょう。
酸化した油を控える
最初に控えるのはお惣菜などすでに調理されたものを買わないことです。油は空気に触れた時間が長ければそれだけ酸化します。さらに安く作るためくりかえし油を使っていると思われます。自宅で加熱調理する場合は酸化しにくい動物性脂を使いましょう。ラードやヘッド、バターやギーは酸化に強い脂です。そして揚げ物は極力減らすことをお勧めします。
他にドレッシングもほとんどが植物油です。たくさん使わないようにしましょう。おすすめはエクストラバージンオリーブオイルに天然塩です。意外と思われるかもしれませんがマヨネーズもそれほど悪いものではありません。
いい油を摂る
ω3系と言われる油には炎症を抑えインスリン抵抗性を低下させます。
青魚の油(EPAやDHA)、アマニ油やエゴマ油などです。これらは熱に弱いので加熱せず使用します。他にはオリーブオイルやMCTオイルもお勧めでこれらは熱にも強いのでお勧めです。
運動をする
運動はインスリン抵抗性を改善します。とくに有酸素運動がお勧めです。ややきつい運動を20分以上と言われますが、20分以下の運動でも効果があることがわかっていますのでちょっとでも運動しましょう。筋力トレーニングも効果があります。筋肉が増えることで血糖値の急上昇が防げます。週2-3回、スクワットや腕立て伏せなど10-15回を3セット行います。
糖尿病にお勧めなサプリメント
糖の代謝をよくするにはビタミンB群を、酸化ストレス除去にはビタミンC、ビタミンE、αリポ酸やその他各種抗酸化物質を積極にとりましょう。インスリン分泌には亜鉛やクロムといったミネラルが必要です。
炎症抑えるEPA、DHAサプリもお勧めです。
ダイエットにもつながることですが、食事療法はカロリーの多い少ないは関係ありません。大切なのはいかにインスリンの使用量を減らしてインスリン抵抗性を改善させるかです。
腸内環境改善
腸内環境を良い状態に保つことも余計な炎症を増やさないために必要です。腸活はすべての病気の治療とその予防に必須のアプローチです。腸に悪い砂糖の摂りすぎ、多すぎる食品添加物、アルコールなどはできるだけ控えましょう。
薬物治療
糖尿病の根本原因である生活習慣改善が必須ですが、できるだけ早期に薬で血糖値の安定とインスリン抵抗性の改善を行い高血糖のスパイラルを断ち切ることが大切です。
ヘモグロビンA1cが6前後で治療を躊躇している方が多いですが、できるだけ早期に治療を始めた方が改善が早く糖化のダメージも軽いため当院では早期の治療開始をお勧めしています。まずは薬で血糖値を安定させインスリン抵抗性を改善してからゆっくり生活習慣改善を行えばいいのです。
糖尿病の治療薬
多くの薬がありますが当院でおもに使用する薬剤をご紹介します。
DPP-4阻害薬
インスリン分泌をコントロールするインクレチンというホルモンを分解するDPP-4という物質を阻害します。血糖依存性にインスリン分泌を調節し、血糖上昇作用のあるグルカゴンを減らす効果があります。低血糖が少なく安全に使用できる薬です。現在最も多く使用されています。
SGLT-2阻害薬
尿中に出たブドウ糖は再吸収されますが、再吸収を行うSGLT-2という物質を阻害し、尿中に糖を排泄することで血糖値を下げる薬です。低血糖が少なく特に食後高血糖の改善が期待できます。
GLP-1受容体作動薬
インクレチンという腸から分泌される物質です。GLP-1はインスリン抵抗性を改善し、また食欲中枢に働き食欲を抑える作用があります。今後も糖尿病治療の中心となっていく薬剤です。
この作用から自費でのメディカルダイエットにも使用されています。使用の是非はあるとは思いますが、肥満もさまざまな病気につながりますので過度な肥満には良い治療薬だと思います。当院でもGLP-1を用いたダイエットを行っております。
糖尿病まとめ
- 糖尿病は血糖値が高いまま糖化が進み各種臓器の機能、とくに細い動脈が痛む病気です。
- 血糖値が上がる理由はインスリン抵抗性。インスリン抵抗性の原因は生活習慣です。
- まずは薬で治療を。生活習慣改善はゆっくり、じっくり。