
糖尿病は多くの病気につながる疾患です。年々罹患者が増え続けており、社会的にも経済的にも大変問題な疾患です。様々な病気につながるため医療費もかかりますし、それだけ糖尿病患者は健常人よりも平均寿命が10年短いとされています。
糖尿病を理解するにはまず糖の代謝とその役割を知ることから始めましょう。
今回は生活習慣によって発症する2型糖尿病について説明します。患者さんやそのご家族が読んでわかるように少し不正確な部分がありますが、あくまで糖尿病非専門医の一医師の見解であることもご了承ください。
糖の代謝
糖と聞いて思い浮かぶのはまず砂糖だと思います。他には果物に入っている果糖も思い浮かぶでしょう。米や小麦、お芋などの炭水化物も糖質です。炭水化物はぶどう糖がたくさん連なって大きな塊となった状態です。
食べ物から吸収された糖は血液中からインスリンというホルモンの働きで細胞の中に入ります。インスリンはみなさん聞いたことがありますよね。細胞の中に入った糖はミトコンドリアという発電所のような組織で燃やされることでエネルギーが作られます。人間はこのミトコンドリアで作られるATPという物質で生きているのです。
血糖値
血液中を流れる糖の濃度を血糖値といいます。だいたい空腹時で90から100くらいが正常で、食後は140以下が正常です。糖尿病はこの血糖値が高いことで様々な問題が引き起こされる病気です。
血糖値が高いと何がいけないの?
一時的に血糖値が高くても特になにも起こりません。でも血糖値が高い状態が長く続くと「糖化」という反応が起こります。この糖化反応が諸悪の根源なのです。糖化とは糖がタンパク質と結合することでそのタンパク質の働きが落ちることを言います。糖化タンパクは最終的に終末糖化産物(AGE)という最強最悪な物質となり臓器の機能を低下させていきます。さらにAGEはそれ自体が炎症や酸化ストレスを引き起こすため糖化が進むとどんどん老化を促進されるのです。ですから癌もできやすくなります。糖尿病に癌の発症率が多いのはこのためです。臓器の中でも最も障害を受けるのが細い血管で、血管がぼろぼろになるため血管の多い腎臓、目、神経がやられます。透析、失明、しびれ。これを糖尿病の3大合併症といいます。
なぜ血糖が高くなってしまうのか?
最大の理由は「インスリン抵抗性」です。前述したインスリンの効き目が悪くなってしまうことです。細胞膜にあるインスリンが結合する部分(受容体、レセプターともいいます)がインスリンと結合しにくくなったり、受容体の数が減ってしまうことでより多くのインスリンが必要となってしまう状態をインスリン抵抗性と言います。
インスリン抵抗性の原因
①インスリンが出過ぎている
人間は過剰な刺激を受け続けると自然とそれに慣れるようにできています。大きな音がする騒がしい空間でも慣れてくると会話が聞き取れるようになったりします。多くのインスリンが出るとだんだん細胞もそれに慣れてしまい、より多くのインスリンが必要になるという悪循環が生まれます。
なぜインスリンが出過ぎるのか?一番は糖の摂りすぎです。
②酸化ストレスと慢性炎症
酸化ストレスとは活性酸素による細胞や組織の障害のことです。活性酸素はミトコンドリアがエネルギーを作るときに出る排気ガスのようなものですが、老化や他の理由で活性酸素を除去する力が衰えてくると酸化ストレスが強くなります。酸化ストレスは細胞のインスリンに対する感受性を低下させます。
酸化ストレスを強める食べ物は糖質と酸化した油があげられます。
糖質はAGEが酸化ストレス源になります。酸化した油を摂ると細胞膜を酸化してしまいます。酸化した油はおもに植物性の油を長時間空気にさらしたり、高熱調理をすると酸化してしまいます。サラダ油などは複数の植物油を混ぜた質の低い油でほぼ酸化しております。サラダというから健康に良さそうに思いますが避けるべき油の代表です。
トランス脂肪酸とは液体の油を人工的に半固形の油にしたものです。マーガリンやショートニングに使われていて欧米では使用禁止になっていますが、日本ではまだまだ使われています。トランス脂肪酸も酸化を進める油です。
また揚げ物にはAGEが含まれるため体の酸化を進めてしまいます。
炎症は免疫細胞が異物と戦うために出す炎症物質がおこす反応です。炎症といっても痛い、熱が出たといった強い急性炎症ではありません。自覚症状の軽い慢性の炎症です。慢性炎症には歯周病や蓄膿症、腸内フローラの異常による腸の炎症などが多く、炎症物質がインスリン抵抗性を高めます。
③内臓脂肪の蓄積
これは卵が先かにわとりが先かの話になります。内蔵脂肪は大きくなると炎症物質を分泌し続けインスリン抵抗性が高めます。インスリンが多いと内臓脂肪がさらにたまります。この負のスパイラルを断ち切るのは容易ではありません。
糖尿病の治療
糖尿病の治療には生活習慣改善が必須で、薬だけでは絶対に治りません。今までの説明からどうすれば糖尿病を治せるのかがわかります。すなわちインスリン抵抗性を改善しないといけないのです。
糖の摂りすぎをやめる
砂糖を減らすことがまずはわかりやすい方法です。特にお菓子やジュースなどです。人工甘味料もインスリンが出ますのでカロリーオフもやめましょう。次に炭水化物です。わかりやすいのは1食で炭水化物は拳1個分までと指導しています。さらに炭水化物は全粒穀物として食べることをお勧めします。精製された穀物は血糖値が上がりやすいのです。玄米や雑穀を白米に混ぜたり、そもそも分づき米や玄米を食べたり。パンも白いパンは避けるようにしましょう。
酸化した油を控える
最初に控えるのはお惣菜などすでに調理されたものを買わないことです。油は空気に触れた時間が長ければそれだけ酸化します。さらに安く作るためくりかえし油を使っていると思われます。自宅で加熱調理する場合は酸化しにくい動物性脂を使いましょう。ラードやヘッド、バターやギーは酸化に強い脂です。そして揚げ物は極力減らすことをお勧めします。
他にドレッシングもほとんどが植物油ですので良かれと思ってたくさん使わないようにしましょう。おすすめはエクストラバージンオリーブオイルに天然塩です。
いい油を摂る
ω3系と言われる油には炎症を抑える作用があります。青魚の油(EPAやDHA)、アマニ油やエゴマ油などです。これらは熱に弱いので加熱せず使用します。他にはオリーブオイルやMCTオイルもお勧めでこれらは熱にも強いのでお勧めです。
運動をする
運動はインスリン抵抗性を改善します。とくに有酸素運動がお勧めです。ややきつい運動を20分以上と言われますが、20分以下の運動でも効果があることがわかっていますのでちょっとでも運動しましょう。筋力トレーニングも効果があります。週2-3回、スクワットや腕立て伏せなど10-15回を3セット行います。
糖尿病にお勧めなサプリメント
糖の代謝をよくするにはビタミンB群を、酸化ストレス除去にはビタミンC、ビタミンE、αリポ酸やその他各種抗酸化物質を積極にとりましょう。炎症抑えるEPA、DHAサプリもお勧めです。インスリン分泌に必要な亜鉛やクロムといったミネラルの補給も忘れずに。
ダイエットにもつながることですが、食事療法はカロリーの多い少ないは関係ありません。大切なのはいかにインスリンの使用量を減らしてインスリン抵抗性を改善させるかです。
腸内環境改善
腸内環境を良い状態に保つことも余計な炎症を増やさないために必要です。腸活はすべての病気の治療とその予防に必須のアプローチです。腸に悪い砂糖の摂りすぎ、多すぎる食品添加物、アルコールなどはできるだけ控えましょう。
薬物治療
糖尿病の根本原因である生活習慣改善に届く薬はありません。ですが、それなりに進んでしまった状態や食事・運動改善がままならない人はせめて薬で血糖値だけでも下げておくことが大切です。今は薬にもたくさんの選択肢があります。ライフスタイルにあった薬を選んでもらいましょう。
まとめ
・糖尿病は血糖値が高いまま糖化が進み各種臓器の機能、とくに細い動脈が痛む病気です。
・血糖値が上がる理由はインスリン抵抗性。インスリン抵抗性の原因は生活習慣です。
・薬で血糖値を下げる治療だけでは不十分ですが、薬を飲まないよりは飲んだ方がいいと思います。